ところでトレモロさんは実はバツ1でした。
若い時に結婚した夫とは
そりが合わず、子どもができる前に離婚をしたのですが、
なにしろこの時代のこと、
故郷に居づらくなって旅に出たのでした。
旅の目的は…そう、新しい旦那様探しの旅なのでした。
トレモロさんはあからさまな手口で引き止められたのをもちろん気づいていましたし、
ろくろべえさんとその家族をちゃんと品定めしていました。
結果、トレモロさんは、
おじいさんの口臭と、世話好きなおばあさんのうっとおしさはあるものの、
田畑家付き長男のろくろべえさんの嫁の座はなかなか捨て置けない、と計算しました。
しかしろくろべえさん自身は特に男前でもなかったし、
まあ働き者であるのがポイントかな、くらいのものでした。
ですからトレモロさんとしては、
“わたしを唯一の女神として崇め奉るのであれば、嫁になってやってもいい”
ありていに言えばそんなつもりでいたのでした。
しかしろくろべえさんはトレモロさんがお好みではなかったので、
どうにも積極的に打って出る気分にはなれませんでした。
ある日、ついにおじいさんとおばあさんはトレモロさんを引き止める口実がなくなってしまいました。
トレモロさんは、“止めるなら今のうちよ”とちょっとの間ぐずぐずしましたが、
ろくろべえさんには引き止める様子もなく、
おじいさんとおばあさんは大変別れを惜しんだのですが、
二人は比較的あっさりと別れることになりました。
結局トレモロさんはろくろべえさんの首が夜な夜な伸びるという秘密を知る機会がありませんでした。
にほんブログ村PR