うつくしい女のひとは名をトレモロと言いました。
トレモロさんはひとばん泊まるだけのはずだったのですが、
おじいさんがぞうりを隠したり、
おばあさんが着物をひどく汚して洗濯するからととりあげてしまったりしたので、
いく晩もいく晩も泊まることになりました。
そのあいだ、ろくろべえさんは自分の長く伸びる首を巧妙に隠していました。
さて、数日一緒に暮らしているうちに
トレモロさんはおじいさん、おばあさん、ろくろべえさんと親しくなりました。
おじいさん、おばあさんもトレモロさんのことを知るようになりました。
どうやら、トレモロさんは大変しっかりした女性のようでした。
てきぱきと家事をこなし、
思ったことははっきり言うし、
老い先短い身としては、そんなしっかりした女性がろくろべえさんのお嫁さんになってくれれば
安心だと思え、
このふたりの縁談がうまくいくといいなあと思うのでした。
しかし、ろくろべえさんからしてみると、
状況はあまりよいとは思われませんでした。
ろくろべえさんにはトレモロさんのはっきりした言葉はいささかきつく思われましたし、
ろくろべえさんがごろごろしていたい時に
トレモロさんときたらてきぱき掃除をしたりするので、
ひらたく言えば、“あんまり、タイプじゃないな”だったのでした。
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