も~もたろさん も~もた~ろさん
しゃんしゃんという鈴の音とともに上のほうから歌が聞こえてきます。
歌はあの、なんだか甲高い子どもの声の、童謡のCDに入っていそうな楽しげな音楽です。
上?
空を見上げると、二頭立てのトナカイが引くそりに、サンタクロースじみたおじさんが乗っていました。
歌はどうやらおじさんのうしろに積まれているCDラジカセから流れてくるらしい。
それが、しゃんしゃんしゃんと鈴の音も軽やかに、頭上を横切っていくのです。
サンタクロースじみた、というのは、白いひげと小太りな体でありつつも、服があの赤と白のユニホームではないからです。
派手なTシャツと、半パンツ…。
そしてなぜ桃太郎…。
つい眉間にしわを寄せながらじいっと見つめてしまいました。
わたしの不快感があまりにも表に出すぎていたかもしれません、サンタクロースじみたおじさんはわたしに気がつきました。
ラジカセのスイッチを切って、こちらに話しかけてきました。
「ホーホーホゥ!おくさん、なにか御用ですかな?」
よく見るとサンタじみたおじさんは日本人のようです。
「いえ別に…」
慌てて目をそらします。
「まさかまさか。そんなにこちらをごらんになっていたくせに」
「すいません、あんまり空飛ぶそりをみたことがなかったもんですから…失礼しました」
さっさと逃げ出そうとしましたが、おじさんはまだ解放してくれないようです。
「それならせっかくですからもっとよくご覧になったらどうですか」
「いえ、結構です。急ぎますんで、失礼します」
「小生がかけている音楽が、“こども童謡シリーズ2~はじめての鬼退治~”であることが気になるのではないですかな」
…そんな題名だったんだ…。そしてそれが気になることであるのをわかってかけてたんだ…。
「イエ…」
あいかわらずkokomamaは目をそらしたままです。
「小生はこれが好きでしてな。こいつらを(といいながらトナカイたちをさす)走らせるとき、時々かけるのですよ。こいつらもこれは好きらしいんでしてな」
「そうですか…それじゃ」
「“童謡”これがまた奥が深いんですな。いかがですか、聞いてみませんか」
「イエ…(確かに鬼退治って桃太郎と一寸法師以外に何があるんだって言う気はするけど)」
「シリーズの2は“はじめての鬼退治”!このセンスもなかなかでしょう。奥さんは桃太郎以外に鬼退治をするヒーローをご存知ですかな」
「一寸法師とか…(ヒーローて)」
「一寸法師!さすが奥さんよくご存知ですな。しかし他にも鬼退治のヒーローはいるんですぞ」
「そうなんですか…」
「奥さん小さいお子さんはおうちにおられませんか。どうですか、このテープ、一本お買い上げになりませんか」
「!(セールスだ!しかもテープ!)」
「今なら“こども童謡シリーズ”全10巻で3000円ですぞ!」
「(一本300円…うさんくさ…)」
「しかもわたしはサンタ!このとおり空飛ぶそりも持っている!お子さんのお名前はなんですかな、もしかしたら今年のクリスマスには、ちょっといいものをもっていってあげられるかもしれない」
「なんと!(ちょっとお得?イヤイヤ)」
「ええい、“こども童謡シリーズ”に、お試し版“こどもおはなしシリーズ”のテープを一本つけちゃおう!」
「イヤうちもうテープ聞けないし…」
「なんですと?!テープが聞けない?じゃあこのテープレコーダーを」
「あのあの、もう結構ですから!」
結局走って逃げました。
でも、空から追跡されたら逃げられない、と気が気じゃありませんでしたよ。
幸いサンタじみたおじさんは追ってきませんでしたが、今年のクリスマスがちょっと怖いkokomamaです。
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